つれづれなるままにイラストやsssなどなどを掲載するブログvv腐女子なので、ご注意くださいm(_ _)m
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 多少病んだ内容のモノは太字表示。
 Rな描写は★マークが、軽く暴力描写には☆がついてます。
 NLの場合は◇で表示させていただきます。

 使っている素材はこちらです。




ドクセンアイシリーズ
   【人物紹介】   【相関図


クローバーボクtoセンセイ

   【ペロリンキャンディ ・独占かたるしす
    カノジョのジョウケン ・ムカシのカレ 
    カレとカノジョは◇ ・しすたーず まりー
    センセイの結婚観 ・シアワセッテ 
    ほうって、すてられて。 ・プリーズ・ギブ
    キライ、KIRAI、だいっきらい! 
    ばれんたいんDays ・キミヲシアワセニスルコト
    うそずき ・らしくない、 ・ ・好きだよ、と想える子
    狡猾な、奸知 ・おまえ、俺が好きなの?
    好きだよ ・ゆいいつの、おんな
    あいされないおとこ ・センセイのイエジジョウ 
    センセイの初恋 】



ダイアパラノイア

  ◎人物紹介:結音がゆく!
     【結音リョタツバメきぃ・ヒメぐれ店長

  ○讐復し―アダガエシ― 
     【序章11.523456★・7☆・8910111213141516あとがき】(完)

  ○厄災い―ヤクワザワイ―
     ・読む前に
     ・暗雲
       【12345
     ・崩壊
       【1234567
     ・償却
      【12345◇・6789・ 】

  ○短編
    璋夜×綾汰  ★、
    怜李×燕   
    緋呉×セイ  1

    烏間×優妃◇ 1

    その他 【所詮、同じ穴のムジナ。 ・私の知らない、あの人。◇ ・嘘はつけない、心。


スペードただ一人の、オトコ。

  ・ サイテイ ナ オトコ
  ・ キケン ナ オトコ 【 123
  ・ アブナイ オマエ
  ・ クサレエン ノ アイツ
  ・ ワカラナイ オトコ
  ・ マモリタイ キミ
  ・ ヒドイ オトコ
  ・ ウシナエナイ アナタ 【 1★・2345678910 】
  ・ カナデル キミ 【 1234567
  ・ ユイイツ ノ アナタ 【 123456789
  ・ ネコ ノ チョウサ【 1234567
  ・ ボス ノ オクサン


ハートディアレスト

  ・ あんたは、抱けない。
  ・ 嫌いに、ならないで。
  ・ 大好きな、『母親』。
  ・ 彼は、優しい人。





◇ さいあくなデアイ { ・2()・ 





◇ SENZADIO REBEL 

 ○本編
 ○番外編{2011クリスマス ・誰よりキミを・・・・・・ ・いつくしつくされ ・赤い糸 ・2012麻那誕






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 怜李が電話を終えたのは10分もしないうちだった。

「今日中は無理だけど、明日は大丈夫だから明日私が一緒に連れて来るよ」
「そうですか。助かります」
「気にしなくていいよ、呉人くん。ただ今日の業務に少し支障が出るかな。璋夜にも言わないとね。一番事情を知っているのは誰かな」
「あ、わ、私です」
「ゆいちゃんか。じゃあ一緒に璋夜の部屋に行って事情を話してこよう。っと、その前にゆいちゃん、次のお客さんは?」
「えっと・・・あと、10分くらいで来ると思います」
「そうか。事情を話すのにそんなに掛からないだろうから大丈夫かな。呉人くん、今日予約の一見は次いつかな?」
「2時間弱ですね。ただ、その時誰も手が空いてなくて・・・」
「それは困ったな」
「あっ、あの、時間ずらせるなら私、出来るかも・・・です」
「それは朗報だ。璋夜に言ってずらせるならずらしてもらおう。なんにしても善は急がないといけないね。行こうか、ゆいちゃん」

 テキパキと事態の整理をした怜李は結音の背中に手を回して璋夜の部屋へ向かおうとした。
 それを燕が止める。その顔は怜李を睨みつけていた。

「これは店の問題だ。客のあんたが余計なことするな」
「だが手詰まりだっただろう。場が収まるなら私は喜んで協力するよ」
「っ、あんたホントなんなんだよ!別に有藤になにされようがもう俺は慣れ・・・っ」
「虫唾が走るだろう」

 有藤に今までどんなことをされたか自分が一番理解してる。そして、自分はそれに全部耐えてきた。
 だから庇われる必要なんてないのに、どうして余計なことして干渉してくるんだ。こっちはどんなことされたって構わないのに。
 むしろめちゃくちゃに扱われた方が、物のように扱われる方が有難いのに。
 そんな燕の言葉にならない叫びを背を向けたままの怜李がいつにない低い声で遮った。

 聞いたこともない低いトーンに燕が声を飲むと、怜李がゆっくりと振り返った。その目を見た瞬間、ゾクッと背筋が震えた。
 いつものように笑っているのに、その目だけが冷酷な印象を抱かせたからだ。

「あんな畜生に燕がいいようにされるなんて。これでも奴を野放しにしてやってるだけ温情与えてるつもりなんだよ、燕」
「で、も・・・っ」
「次もし有藤に連絡しようなんて言ったらそんな気を起こせないように俺が君を調教してやろうか?」

 その目はいつもの優しさなんて感じさせないほど冷たくて、その脅しが実行されるだけの確信があった。
 燕は足がすくんでその場に座り込む。
 怜李の隣にいた結音も顔が青ざめていた。緋呉もさすがに口は挟まない。
 怜李の気迫に押されて静まる空間。すると、怜李がクスッと急に朗らかに笑った。

「なんてね。ちょっとムカついてつい脅してしまったよ。心配しなくとも有藤の名前さえ出さなかったらそんなことしないから安心してくれ」
「・・・あ・・・」
「怖がらせてしまったみたいだね。すまない。さ、ゆいちゃん。行こうか」

 燕が怯えた様子を見せたので、怜李は申し訳なさそうに笑って謝罪し、結音を伴って行ってしまった。

 燕は言葉に出来ずに震えていた。怜李があんな目が出来るなんて思わなかった。
 いつも穏やかで負の感情なんて想像もつかないような優しい顔ばかり見てきた。自分が何を言おうと悪態を吐こうとそれ以上の甘い言葉で返してくる。
 大人で何枚も上手で、動じない男。
 それがあんな風に冷たい目をするなんて。

 半信半疑な燕の頭を緋呉が優しく叩いた。

「らしくなく震えてんな。さすがに怜李さんのあれは怖かったか」
「・・・・・・ぐれは、怖く、なかったのか・・・?」
「いや、怖かったぜ。ま、本気であの人怖がらせたらあんなの非じゃないけど」
「見たこと、あんの?」
「そりゃな。あの人の・・・てか璋夜んち?そことは昔から交流あったしな。怜李さんはあれだ。仏だよ」
「仏・・・?」
「仏の顔も三度まで、ってあるだろ。あの人はそれだ。沸点は高い。めったなことじゃ怒らない。ただ、本気で怒らせると誰よりエグイ。璋夜なんてまだ可愛いほうだ」

 あの人が本気で怒った場面なんて数少ない。だから鮮明だ。
 真綿で首を絞められるかのようにじわじわと追い詰め、血を流さずに相手を屈服させてしまう。腕力を使えば一瞬で仕留められるだろうに、それじゃあ反省にならないだろうと暴力は決して使わない。

 彼が得意なのは調教だ。そして彼に調教された者は例外なく彼の従順な飼い犬と化す。
 自分に敵意を向けた相手すら屈服させてしまう圧倒的な存在感。
 それを見事に隠すその底知れない恐ろしさ。そのカリスマ性に惹かれる者は少なくない。
 烏間もその一人だ。
 そして現鴇棠組組長・夾司が一目置く1人でもある。

「あの人の気が長くてお前はラッキーだぜ、燕。じゃなきゃいくら誰かに義理立てしようと、無意味だ」
「無意味・・・?」
「じゃなかったら有無言わせずに抱かれて、今頃お前はあの人の毒が全身に回って狂ってる」
「まさか・・・」
「あの人が甘いと思ってんだろ?確かに甘いぜ。璋夜とかと違って融通も聞かせてくれる。ただ、独占欲の類が違う」

 肉体的な拘束だけじゃない。あの人は精神的に拘束してくる。
 綾汰や奏之のように自分から乞うのではない。彼に狂わされてしまう。

「お前、そんな人に愛されてんだぜ。これからも歯向かう気なら覚悟しな。その甘い毒に狂わねぇように」
「っ・・・」
「いっそ堕ちちまえば楽だと思うけどな。後はお前が認めるだけだ」

 そう言って緋呉はポンポンと頭を撫でると、緋呉は自分の部屋に戻って行ってしまった。

 残った燕はその場にうつむいて目を閉じた。
 そんなの知らない。そんな顔持っているなんて知らない。
 そんな恐ろしい人だなんて信じられない。でも、自分より知っているであろう緋呉が言うならそうなのだろう。

 怖い、と正直に思った。
 それなのに何故だ。怖いと心が素直に恐怖を抱いているのに、あの人が触れたらきっと自分はいつも通り心が甘く震えてしまう。そんな確信があった。
 緋呉はあの人の毒が全身に回ると狂うと言ったけれど、なら自分は既に遅いのかもしれない。
 あの人のあんな顔を見ても、嫌いになんてなれない時点で。







 

[償却―9]の続きを読む



 罰・一日目。璋夜の命令通り、新規客は紗妃に任せ、燕・結音・緋呉は顧客の相手をした。
 前日の客の予約もあるので予定は詰まっていたが、幾度もそんな事態に直面したことがあるので、3人は大して苦労なく業務をこなす。
 だが、紗妃の方はそうもいかなかった。

 初日早々、小さな不服の種が生まれた。
 たまたま客を玄関で送っていた結音がそれに気付く。

 紗妃の部屋から出てきた客の顔が冴えなかったのだ。紗妃は出てくる気配もなく、気になった結音がその客に声を掛けた。
 30代くらいのパッとしない雰囲気をした黒髪のポロシャツの男。確か、事前の予約では会社員だと言っていた。恐らく、日頃の憂さを晴らしに来たのだろう。
 何があったのかと聞くと男は少し眉間に皺を寄せて話し始めた。

 入った瞬間から不機嫌で、何を話しかけても何の返事も返さなかったらしい。その上、こんなところ来てまで女に飢えているんですね、可哀想と嘲ったのだという。
 男は反論も出来ずに予定を早く切り上げて出てきたらしい。

 それを聞いた結音は正直呆れてしまった。
 もっとうまく立ち回るかと思ったのに、全然なっていない。この仕事がまったく理解できていない。
 結音は男に深々と頭を下げて不届きを謝罪する。すると、男は本当のことですしと苦笑いした。
 客に気を使わせている。それが悔しくて、結音はロビーに置かれている予約表を持ってきて男に渡した。

 明日、お時間ありますか?よければ、私と話しませんか?私、明日とっても暇なんです。だから話し相手になってくれたら嬉しいです。今日の余った分、明日私にくれませんか?

 そう一生懸命に願う。すると男は目をしば立たせた後、嬉しそうに笑って予定表に名前を書いてくれた。
 見送る時、結音は満面の笑顔でじゃあまた明日お待ちしていますねと告げる。そうすれば、少しでも気持ち穏やかになってくれるかなと思ってのことだった。
 すると、男も満面の笑みでありがとうと言って去って行った。

 結音はとりあえずトラブル回避できたことに安堵する。ただ店長に明日予約が増えたこと言わなきゃと思う一方、先が思いやられるとも思った。
 幸先が悪すぎる。まだ優しい客だったから自分が穏便に収めることが出来たが、もし気性の荒い客だったら緋呉や最悪、店長を出さなきゃいけない。そしたら業務に響いてしまう。
 それが何回も続くのはさすがにまずい。

 でも自分が言っても紗妃は聞かないだろうなと考えて結音はロビーのソファーで深々と嘆息する。

 店長にお願いするのは正直最後の手段で留めたい。ただでさえ不機嫌な店長をこれ以上刺激したくない。
 頼むとしたら緋呉だろうかと考えて、結音は頭を抱えた。

 いつも緋呉にばかりそういうことを頼んで申し訳ない。たまには自分たちで解決したい。
 なら燕に相談?それが今のところ一番無難な手段じゃないだろうか。

 そう考えていた時だった。

 突然後ろから目隠しされて、高く柔らかな声が明るく問う。

「だーれだ?」

 幽かに香るアルコールとラベンダーの匂い。結音はすぐにわかった。

「美優さん?」
「そう。みゆさんだよ♪」

 すぐに当たられた美優はニコッと笑って後ろから顔を覗かせた。
 彼女は30代前半で高級クラブのママを経て、今は自分のパブを何軒も持つやり手の女性。夜は仕事があるからと開店と共に来る、緋呉の上客の1人。
 姉御肌で、優妃の相談にもよく乗る頼れる人物だった。
 しかし、確か2時間くらいの予約だったはずだが、まだ1時間弱しか経っていないことに結音が首をかしげた。

「あれ、もう帰るの?」
「そうよ~。昨夜いろいろとトラブって疲れてるから早めに切り上げたの。ね、ぐれ」

 美優が背後の緋呉に同意を求めると、緋呉は苦笑した。

「寝かしてあげたいところなんだけど俺も次の客の予定があるからね」
「あら、私はぐれの綺麗な顔を見られただけで十分よ。家でおとなしく寝ておくわ。あ、でも次はたっぷり構ってね?」
「もちろん。美優さんを無下にするわけないでしょ?どんなワガママでも叶えてあげるよ」
「じゃあ次来るまでに何してもらうか考えとくわ。ゆいちゃんにも次は何かお土産持ってくるわね」
「そんな、いいのに・・・」
「そうはいかないわ。・・・ま、それは置いといて、何かあったのかしら?」
「え?」
「ゆいちゃんの顔が浮かないみたいだから。お姉さんでよければ話聞くわよ」

 ソファーの背もたれに肘をついてニコッと笑う美優に結音は敵わないなと苦笑する。
 自分がわかりやすいのか。彼女が聡いのか。
 でも結音は首を振って笑みを浮かべる。

「大丈夫。これは店のことだから客の美優さんには言えないよ」
「そう。確かに、店のことなら部外者には言えないわね。じゃあ、ぐれに話しなさい。1人で抱え込んだらお肌に悪いわよ。じゃあ私は帰るわね」

 美優はすんなり引いてくれた。それぞれの事情というものがあることを理解したのだろう。自分が関わるではないと思い、美優は立ち上がって結音の頭を撫でた後、緋呉の頬にキスをして最後に2人に手を振り出て行った。
 扉が閉まるまで手を振っていた緋呉は閉まるとすぐに回り込んで結音の隣に座る。

「だそうだ。で、店のことって、紗妃のことかな?」
「・・・・・・やっぱりわかる?」
「そりゃな。ゆいがなにかトラブるわけがない。今目下の問題は紗妃の扱いだ」

 腕を組んでソファーの背もたれに寄りかかった緋呉ははぁと大きなため息をついた。

「で?あいつ何したの?」

 その目は少し苛立ちを含んでいた。
 緋呉に相談することを躊躇っていたが、もうそうも言っていられないなと結音は素直にさっきの出来事を話すことにした。 

[償却―8]の続きを読む


 璋夜の部屋から出てきた紗妃が最初に出くわしたのは向かいの部屋の燕だった。
 はだけた着物の燕は手を押さえる紗妃を鼻で笑う。

「その様子だと店長にあしらわれちゃったの?きぃがいなくなった途端に店長のとこ行くとか・・・無駄な媚びお疲れ様」
「っ・・・本当に嫌味な奴」
「そっちはお姫様面台無しだね。残念ながらあんたに売る媚びないし、店長のとこ行くくらいなら自分磨いとけよ。客にまでそんな顔で対応されると面倒なんだよね」

 自分の部屋の襖を閉め、嘲笑する燕に紗妃が歩み寄ってその胸倉を掴む。

「あんた年上への言葉遣い改めなさいよ。まだガキのくせに」
「そのガキの言葉にいちいち反応してたら世話ないな。放してくれる?開店したらすぐ俺の上客来るの。その後も予定詰まってるからあんたの文句に付き合ってる暇ないんだ。ごめんね?」

 ふっと笑んだ燕は紗妃の手を掴んで振り払う。見下されたと感じたのか、紗妃は唇を噛んで睨んでいる。
 この女を薄幸の美人だとか抜かした奴は誰だろう。ただの喧しい女じゃないか。

「悔しいと思うなら文句言えるだけの地位に付いてから言ってくれる?じゃないと、ただの負け犬の遠吠えだよ。ま、無理だろうけど」
「あんたぐらいすぐに抜けるわよ!」
「ぜってぇムリ~♪せいぜい今のあんたに付くのなんか10人くらいだって。俺その倍だし」
「っ、それがなんだっていうのよ!そんなことで比べられても悔しくもない・・・っ」
「はい、負け犬の遠吠え~♪あんたってホントダメダメだな。絶対抜いてやるぐらい意気込めないの?こんなんじゃすぐに音上げちゃうかな。ま、知ったこっちゃないけど」

 覚悟もない奴が過ごせるほどここは生易しくなんてない。
 自分も結音も、優妃も、そんなこと承知してここにいる。いや、ここに来る前からどんな環境でも助けなんて乞わなかったと言った方が正しいかもしれない。
 いざという時は誰も助けてくれない。助けられない。
 だから、自分でどうにかしてきた。ここも変わらない。

 ただ、ここにはそんな自分たちを癒すものがあった。
 傷つきやすいくせに、傷を隠そうとする自分たちを想って涙を流す、か細い小鳥。
 その小鳥が自分たちを好きだと言って笑ってくれる度に、幸せを感じた。護りたいと思った。
 この女は、その小鳥の羽を傷つけた。それ相応の傷ぐらいは負わせなければ気が済まない。簡単には音は上げさせない。

「こんなことになったのも因果応報なんだからせいぜい頑張りな。逃げるなんて許さないからね」

 これ以上この女と話したくないと燕は一方的に話を切って、玄関の方へ向かって行った。

 女の足音はしない。追ってはこないみたいだ。開店するまで来なかったら緋呉に頼んで連れて来てもらおう。
 そう思って深々と息を吐いてロビーに来ると、ソファーの肘掛けに座る可愛らしいロリータファッションの結音がいた。

「おはよ、ゆい。珍しく甘いカッコしてるな」
「おはよ、ツバメ♪これは昨日予約していた人の要望。幼女趣味らしくて、前からいろいろ指定してくるんだ。どう?似合ってる?」

 結音が楽しそうにくるっと回って見せてくる。ピンクと白の甘ロリだったので、天真爛漫な結音にはぴったりだ。
 結音のフワフワした衣装に先ほどまでの苛立ちが消えた燕はフッと頬を緩めた。

「いいんじゃね?カワイイよ。こういうの着れるうちに着とかねぇとな」
「ツバメも似合いそうだけどな~。あ、でも着てくれるならゴスロリが良いな!」
「要望があるならしてもいいけど、料金発生するぜ?俺、高いけど大丈夫?」
「え~それは困るな。あっ、だったら怜李さんにおねだりしよっと♪怜李さんならお金に糸目は付けないでしょ?」

 半分冗談のつもりで言った燕。結音は苦笑した後、ふと考え付いたのかとんでもないことを言ってきた。
 もっとも言われたくない相手の名前を出され、燕は慌てて止める。

「そ、それだけはやめろ!あの人ならやりかねない!」
「あ~やっぱりそうだよね♪で、ツバメ、似合うね。とか可愛いね、とか臆面なく言いそう♪」
「っ、だから嫌だって言ってんだよ!!」

 結音はその反応にクスクス笑いながら、怜李の真似をした。
 これが少し似ているから思わずその顔を思い出して、思わず声を荒げた。
 怒鳴られた結音は面を喰らった顔をしたので、気まずくなって目を逸らす。

 あの人は怖い。あの人に甘い言葉を掛けられるたびにどういう顔をしていいかわからなくなって、胸が詰まってしまう。
 だからいつも、あの人と極力長い時間いないように予定を詰めてきた。余計な、毒を掛けらないように。
 でも、それは出来なくなった。自分はしばらく、あの人の専属。あの人は頻繁に来る。
 それが自分への罰。受け入れたのに、やっぱり怖い。
 あの、甘い毒を吐き散らされて逃げ場が無くなるのが、考えるだけで怖い。

「あの人に・・・これ以上、みっともない姿をみせるわけにはいかないんだ」
「もうツバメったら意固地なんだから。そろそろ怜李さんに落ちちゃえばいいのに。そしたら楽だよ?」
「・・・っ俺は別に楽にならなくていい!そんなの、望んでない!!」

 結音の言葉に燕がまた怒鳴る。突然怒鳴られて結音が目を見開いた。それに気付いて燕があっと声を上げて謝った。

「ごめん。ゆいに怒鳴ることじゃなかったな。・・・・・・でもホント、そういう冗談は勘弁してくれ」
「・・・・・・冗談じゃないもん。私は・・・ツバメの心配してるだけだよ」

 なんとか笑って取り繕うとしたツバメの言葉に結音は目を伏せて返す。そして、顔を上げると怒った顔をしていた。

「私、ツバメのこと好きだけど、そういうとこは好きじゃない」
「そういうとこ?」
「幸せになろうとしないところ。好きだから余計に好きじゃない」
[償却―7]の続きを読む





「璋夜、無事に着いたって怜李さんからメール来たぜ」

 部屋に戻って服を着替えていると、緋呉が声掛けもなしに入ってきた。
 が、璋夜は一瞥しただけでまた帯を締める作業を進めながら口を開いた。

「俺の方にもかなからメールが来ていた。後は綾汰の力量次第だ。で、優妃のほうは?」
「優妃も今しがた荷物持って部屋替えした。今頃、烏間さんに慰められてんじゃねぇの?」
「そうか、ならいい。今日も仕事だ。お前もきちんと準備しとけよ」
「それはするけど。・・・お前って、こてんぱんにする割に優妃のこと実は信頼してるよな」

 あんなに反目しているくせに、反抗的な優妃を少しも疑うそぶりもしない璋夜が少々不思議だったので素直に疑問をぶつけた。
 すると、璋夜は帯を締め終わったようでやっと緋呉の方に体を向けて答えた。

「あいつは自分で言ったことは守る。紗妃に過保護だったのも自分で決めたことを破りたくないからだろ」
「だからもう関わらないと決めた以上、そこらへんは心配いらないと。捨て駒呼ばわりするくせに、結構ちゃんと見てんじゃん」
「性格を理解していれば次の行動も大体は把握できる」
「さすが店長。・・・しっかし、今回のはちょっと痛手だな。優妃の方の利益がないってのは」
「その心配はいらねぇよ」
「紗妃がその分上げるって?いやいや、それは」
「ちげぇよ」

 想像して笑いそうになった緋呉の言葉を璋夜は無表情のまま遮った。
 どういう意味かわからず首をかしげると、璋夜はフッと笑みを浮かべて小さな机に置いていた顧客名簿を見せて告げた。

「優妃の休みはそんなに長引かねぇよ。すぐに客から乞われる」
「・・・・・・ああ、なるほど」

 璋夜の言わんとすることを察し、緋呉も不敵な笑みを浮かべた。
 優妃の指名する客がどういう人物が多いのかを知っているからだ。

「じゃあ利益の心配はしなくて大丈夫か?」
「そこらへんは俺の仕事だ。てめぇは今日の客のことでも考えてろ」
「へいへい。ああ、でももう1つ懸念があるんだけど」
「紗妃の方だろう」

 口にする前に璋夜が返す。緋呉は腰に手を当てて深々と嘆息した。

「どうなることやら。うちの評判落とすことだけはやめて欲しいよな」
「本人がやる気になってんだ。今までの分、馬車馬のように働かせてやる。もう、守ってくれる姉貴はいない」
「この仕事の過酷さを身に染みて感じちまう。あ~あ、哀れだねぇ」

 そう言いつつ、緋呉の表情はとても楽しそうだった。
 璋夜はふんと鼻で笑って顧客名簿を机に再び置いた。

「とはいえ、初めから飛ばしていつぞやのようになっちゃ敵わない。せっかく駒が増えたんだ。有効活用しねぇとな」
「そうだな。適度に休ませてやるか。燕たちにも伝えとく。さて、何日で弱音吐くかな」
「吐いたとしても以前のように何日も休みにはしない。精根全て削いででも稼いでもらわねェと」
「あーあ、怖い怖い。だからお前のこと敵に回したくないんだよな」
「俺のことを言えた義理じゃないだろ、てめぇは」

 まるで自分だけ怖いかのような言動がいけ好かなくて軽く睨む璋夜に緋呉はフッと不敵に笑う。

「そりゃそうだ。なぁ、璋夜。事態が安定したら1日休みをくれよ。最近、セイを十分に構ってやれなかったからさ」
「好きにしろ」
「サンキュー。じゃあ今日の仕事も頑張りますかね。璋夜も欲求不満だろうけど頑張れよ」

 手をひらひらと振って、緋呉は璋夜の不幸を楽しむかのように部屋を出ていった。

 静かになった部屋の中で璋夜ははぁと息を吐いた。
 他人事だと思いやがって。まぁ、その通りだが。

 部屋の中にはまだ血の跡が残っている。
 畳や壁紙を張り替えなければいけないのでその分、紗妃の借金に上乗せしておこう。
 この際、部屋の内装も変えてもいいかもしれない。

「・・・・・・ここと、向かいの部屋・・・。あと、優妃の部屋も変えるか」

 元の部屋は優妃と紗妃に合わせて蝶と桃の花をモチーフにしていた。
 蝶は優妃のイメージだったので、優妃の部屋は蝶でいいだろうと即決して胡坐をかいて顧客名簿を見る。

 今日の客の中には無論、昨日急きょキャンセルした客もいる。
 彼らにはきちんと詫びを入れ、料金を割り引かなければいけない。
 大して打撃ではなかったが、ジャブ程度には痛い。
 その上、優妃の空いた穴を考えると決して笑っていられる額ではない。
 璋夜は髪を乱暴にかき乱して深々と溜息を吐いた。

 その時、襖を開く音が聞こえた。入ってくる人物は声をかけることもなく、中を進んでくる。
 その足音のリズムで璋夜は何者かを理解して振り返らずに問う。

「何か用か、紗妃」
「・・・すごい。私だってわかったんですね、店長」

 振り返ることなく言い当てた璋夜に紗妃は嬉しそうな声を上げた。
[償却―6]の続きを読む



 時間は遡り、綾汰がいなくなった紅楼。

 綾汰を見送り終え、優妃は自分の荷物を取りに行くため自らの部屋に向かっていた。
 前日、結音と燕が手伝おうかと聞いてきたけれど、その申し出は断った。
 綾汰がいなくなった今、緋呉も恐らく自室に戻っている。
 今部屋には紗妃しかいない。
 今しか、話す時間はない。

 部屋に戻ると、思っていた通り紗妃が部屋の隅に座っていた。
 緋呉に長い時間監視されていたからか、その目は荒んでいて優妃のことも敵だとばかりに睨んできた。
 ある程度覚悟はしていたので、すぐに逸らして奥のクローゼットに向かい、荷物の整理を始める。

 来た時はほとんど身一つだったので荷物はここで人からもらったものばかり。
 身なりを綺麗にした方がいいと緋呉が譲ってくれた着物や、似合いそうだからと客がくれた服。
 外出した燕や結音がおみあげに買ってきた小物類や日用品。
 すべて、自分の為にともらったもの。どれも大切なものだから持っていかなければ。
 小さな旅行鞄にそれらを詰めていると、紗妃が口を開いた。

「あいつ、いなくなったんだってね」

 その問いに優妃は返事をせずに黙々と作業を続けた。
 すると、紗妃が何故かクスクスと笑った。

「これでこの店にも安寧が戻ったわ」
「リョタは・・・一時的に別のところに預けられただけよ。しばらくしたら戻ってくる・・・はずよ」

 どこで曲解したのか、紗妃の中ではもう戻らないという結論だったようだ。
 そんなわけがない。綾汰にはそこまでされる落ち度はないんだから。
 でも、またこんなことをされては困るので、優妃はきちんと訂正した。
 それを聞いた瞬間、背後の紗妃の言葉が堅くなる。

「なにそれ・・・。なんでそうなるのよ!!あんな奴がいたからこんなことになったのよ!?あいつがすべて悪いのに!!あいつがいなかったら私だってこんなことにならずに済んだ。そうでしょ!?」
「・・・・・・さあ、どうかしら」
「そうに決まってるでしょ!?」

 望んでいた答えを口にしない優妃に紗妃が怒鳴る。
 いつもならそうねと答えるところだったからだ。でも、もう優妃は嘘を吐きたくはなかった。

「リョタのことがなくても、あんたは店長がいつか他の誰かを好きになったら同じことをすると私は思う」
「は?」
「店長があんたを好きにならない限りあんたは満足しない。あんたはまた他の誰かを傷つけ続ける。・・・・・・自分が一番でなければ満足しないものね」
「っ、優妃なんでそんなひどいこと・・・っ」
「あんたをそんな風にしたのは私と、お父さんたち・・・周りのせい」

 お姫様のように扱って、守ってきたから。紗妃を悲しませること全てから。
 優妃はぱたんとカバンのふたを閉じると、紗妃の方を見た。

 紗妃は立ち上がって更に睨んできていた。
 いつもなら胸が苦しくなるところだけど、今はもう悲しいだけだ。

「紗妃、私もうあんたのお姉ちゃんやめるね。しばらく関わらない。あんたの望み通りにしてあげる」
「・・・そう。私も清々する。優妃の過干渉には飽き飽きしていたの!私の言葉なんて全部却下して、勝手に決めるところがうざったかったんだから!これからは私の自由にするわっ」
「・・・わかった。私もこれからは何があっても、もう助けないことにする」
「そうして!私は1人で生きていける。優妃に頼らなくてもね!」

 引き留めることもせず、切り捨てる紗妃の決断を優妃はかろうじて笑みで受け入れた。
 ああ、自分のしてきたことは紗妃にとってその程度だったんだ。気を抜けば泣いてしまいそうだ。
 カバンを持って立ち上がった優妃は紗妃をすり抜けて部屋を出て行った。

 部屋は向かい側だったのできちんとした足取りで一気に駆け込み、扉を閉めてその場に座り込んだ。
 お姉ちゃんをやめる。それは今までの自分の生き方をやめること。
 今までの人生すべてを、否定すること。

「・・・ああ、終わったんだ」

 口にすると、なんだか空しくなる。
 自分で良かれと思ってやってきたことだったのに、結果的には何も得られなかった。
 ただの自己満足になっていたなんて。

「・・・・・・私って、なんだったんだろ」

 ふとそんなことを思ったけれど、答えが得られるわけなどなく、膝を抱えてうずくまった。

 ここに初めて来たときのことを思い出す。
 今までとは全く変わった世界。体を売ることで利益を得る場所。
 嫌悪した。こんなところで生きていくことなんて有り得ない。
 でも、ここで生きていくしかなかった。病弱な紗妃の為にも自分が頑張るしか考えられなかった。

 最初の頃はたびたびストレスで吐いていた。
 それでも嫌だとは言わない。言えば店長が自分たちを追い出すから。
 血反吐を吐いてでも、ここで生きて行かなければと必死だった。

『今日は話をしませんか』

 そんな時だった。あの人と逢ったのは。
 上司に誘われて来店してきたから乗り気ではなかったはずなのに、こんな体を売る自分に気付いて軽蔑せずに笑いかけてくれた変な人。

 あの人がいたから自分は救われた。
 あの人の存在が、自分の支えだった。

「烏間・・・さん」
「優妃」

 いないのだから返事なんて聞こえるはずがないのに、返事は何故か返ってきた。
 驚いて前方を見ると、窓のそばには『彼』がいた。
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 洸刀との初対面も済み、再び部屋に向かっている間、綾汰は洸刀と手を繋いでいた。
 洸刀曰く、敦牙と繋がせるくらいなら自分が繋ぐ!とのこと。
 別にそこにこだわってはいなかったし、洸刀と少しでも仲良くなれるかもしれないと綾汰も受け入れた。
 が、それが少々甘かった。

「ふぅん。兄貴ってリョタ相手だと優しいんだね。いがぁい」

 歩き始めてから洸刀の質問攻撃が始まっていた。
 璋夜とどうやって会ったの?どこが好き?から始まり、果てはどのくらいの頻度でエッチするのと思春期らしいことを興味津々に質問攻めにしてくる。
 そのせいで綾汰の顔はリンゴのように真っ赤になっていた。

 可哀想になって来て奏之が話に割って入った。

「洸刀、あんまり困らせないの」
「だって気になるんだもん!あの兄貴が自分の相手をどうしてるかさぁ~」
「お前にはまだ早いよ。リョタくんも素直に答えないでいいからね」
「そ、そう・・・ですよね」

 綾汰は返す言葉もなく項垂れた。
 本当に、どうして自分はこう素直に答えてしまったのだろう。
 すると、洸刀はムッとした顔で奏之に食って掛かる。

「別にいいじゃん。俺、思春期だもん」
「思春期っていえば乗り切れると思うなよ」
「かなってそういうところホント枯れてるよね。親父にほぼ毎日抱かれてるくせに」
「・・・それは今は関係ないだろ」

 洸刀に指摘されると、奏之は一瞬動揺したようだったが、すぐに持ち直した。
 が、ほのかに顔が赤らんでいる。

 親父の猫だ、と璋夜から聞いてはいたものの、綾汰は詳しいことを知らない。
 だから興味津々で奏之に問う。

「あ、あの、かなさん・・・と、璋夜さんのお父さんって・・・そんなに頻繁に・・・?」
「うん、そうだよ。かなが来た時から10年間ずぅっと。親父が疲れているときとか、かなが疲れている時以外は。もうあの女よりも奥さんみたいだよな、かな」
「余計なこと言うな」
「リョタが聞いたんだから答えてあげないと」
「すごい、ですね・・・。10年間ずっと、お互いだけを求め合えるなんて」

 自分たちよりずっと長い時間、奏之は体を繋ぎとめている。
 それはもう心も繋ぎとめているのと同じではないのか。
 もう、相手以外考えられないくらい思い合っているのだとしたら、それはとても素晴らしいことだ。

 自分もそうなれたらいいなと思った。
 すると、感心された奏之が苦笑する。

「すごくなんてないよ。俺はただ、夾司がそのままの俺でいいって言ったから自然体でいただけだし」
「さらけ出せるくらい仲がいい、んですよね。それって、とっても素敵なことだと、思います」

 本当に羨ましい。きっと奏之が何があってもそばにいると強く思っていたからだ。
 自分もそれくらい強い意志を持っていれば、ずっと璋夜のそばにいられるだろうか。
 改めてもっと強くなりたいとそう願い、奏之に笑顔で告げる。

「俺も、かなさんみたいになりたい、です」
「その調子だよ。頑張ろうね、リョタくん」
「はい!」

 奏之に力強く頷いた綾汰。と、その会話を聞いていた洸刀がわざとらしく溜息を吐いた。

「あーあ、こーやまも親父みたく俺のこと愛してくれないかなァ~」
「え?敦牙、さん?」

 突然敦牙が話題に出たので綾汰の目が洸刀に向く。
 洸刀は聞き返されたので頷き、頬を膨らませた。

「2年前からアピールしてるのに全然なびいてくれんの」
「そう、なの・・・?」
「洸刀さん」

 敦牙が眉間に皺を寄せて注意するが、洸刀はプクッと頬を膨らませた。

「ホントのことやもん。いろいろ言いくるめて俺のこと抱かんの。どう思う、リョタ」
「え?いや、どう思うって・・・。まだ14歳だから・・・ちょっと早い・・・よ」

 さすがに14歳に手を出すのはまずい気がする。
 自らの考えをたどたどしく口にした綾汰に洸刀はまだ納得がいかないみたいだった。
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 屋敷の中にはところどころにいかつい顔をした男たちが立っていた。
 やはり極道の家という雰囲気に少し萎縮する綾汰だったが、手を引いていた敦牙と笑顔で話しかけてくれる奏之のおかげでそんなに緊張することはなかった。

「今回の件は災難だったね。背中痛むときは言ってね」
「は、はい。ありがとうございます。でも、これは俺が自分で受けに行った傷なので・・・」
「自ら盾になる根性は買いたいところですが、今回の件は無謀ですね」
「そう、ですよね・・・。璋夜さんにも心配かけて申し訳なかったです・・・」

 敦牙の苦言に返す言葉もなく綾汰は項垂れる。
 すると、奏之がでもと微笑みながら慰めた。

「根性があるのは大事なことだよ。だからそれに見合うだけの力を付ければ問題はない」
「力?」
「身を守る術と、いざという時の判断力かな。それから覚悟」
「そうすれば、最小限の被害で済むこともあります」
「・・・・・・俺に、出来るんでしょうか」
「やらないと璋夜のそばには置けない。いちいち保護するわけにもいかないからね」

 奏之はいつものように笑みを浮かべていた。
 けれどそこに含まれた小さな棘に綾汰は気付いていた。

 璋夜と関わることの危険を示唆しているのだろう。
 それは忠告、それも厳しい忠告だ。
 璋夜のそばにいるならば、避けて通れない道なのだと。

 だから綾汰も足を止め、真顔で奏之に懇願する。

「教えてください。身の守り方とか・・・璋夜さんにもう迷惑かけないように」
「もちろんだよ。厳しいことも言うだろうけど、ちゃんと付いてきてね」
「はい。よろしくお願いします!」

 慌てて奏之に向かって頭を下げると、奏之と敦牙は笑顔で頷く。
 ふと敦牙が何かを思い出して小さく声を上げ、綾汰に告げた。

「そういえば、リョタくんには洸刀さんの隣の部屋で寝泊まりしてもらうことを伝えていませんでしたね」
「璋夜さんの弟さんの、ですか?」
「ええ。俺は洸刀さんの世話も兼ねているのでその方が手間が掛からないと夾司さんからの計らいです」
「そ、そうなんですか。仲良く、なれるといいな・・・」

 璋夜がそれほど人を好きではないからその弟もそういう感じなのかなと想像して不安になる綾汰。
 奏之は笑顔で大丈夫だよと返した。

「洸刀は人懐こいから慣れたらすぐ仲良くなれると思う。それから、屋敷の奥には絶対行かないこと」
「奥になにがあるんですか・・・?」
「目に入れなくていいものですよ。あと、あまり頻繁に出歩くのはやめてくださいね。組員には念を押してはいますが、ここはならず者の巣窟です。なにがあってからではいけませんから」
「わ、わかりました」
「良い返事です」

 笑顔で褒められて、綾汰は少しくすぐったくなった。
 こんなにストレートで子供を扱うような甘やかし方は孤児院以来だ。
 お兄ちゃん、だったのだろうか。

「あ、あの・・・た、敦牙さんは・・・ご兄弟いらっしゃるん、ですか?」
「え?」
「あっ、いやっその・・・あ、甘やかすの慣れてるから・・・」
「あ~・・・それは多分、洸刀さんの世話をしてきたからでしょう」
「敦牙さんは洸刀が生まれた時からずっと、洸刀をそばで見てきたんだよ」

 敦牙と共に理由を口にする奏之。綾汰はその言葉に引っ掛かりを覚えた。

「お、弟さんって14歳なんです、よね?じゃあ14年間・・・?」
「ええ」
「あの、敦牙さんっておいくつ・・・なんですか?」
「今年で28になります。ああ、今の洸刀さんの歳に洸刀さんの世話係になったってことですね」
「そんなに前からここに?」
「ええ。正確には12歳のころにここに」
「ご両親は・・・?」
「ヤクザに殺されたんです」

 すらすらと笑顔で答える敦牙に綾汰は驚いた。
 ヤクザに両親を殺されたのに、どうしてこの人はここにいるんだろう。
 当然抱く疑問。すると、もう聞かれ慣れているのか、敦牙が笑みを崩さずに続けた。

「ああ、でもここにいるのは夾司さんへの恩があるからですよ。あの人は理由のない暴力は振るわない。リョタくんのことも、ちゃんと評価してくれるはずです」
「尊敬、してるん・・・ですね」
「ええ。だからこの組を守るためならなんでもしますよ」

 相変わらず優しい笑顔なのに、敦牙の底知れない忠誠心を垣間見た気がした。
 これが、覚悟した人の出す雰囲気だと思った。
 ただ優しいだけじゃない。この人は、怖い人だ。
 そう思うと、改めて自分のいる場所の威圧感に委縮してしまう。青ざめた綾汰に気付き、敦牙は申し訳なさそうに笑った。

「怖くなってきましたか?でも璋夜さんのそばにいるとは、そういうことですよ」

 そう告げられ、綾汰は唇を噛んでうつむいた。
 怖い。本音を言うならその闇が、すごく怖い。自分もこうなるのが、とても。
 でも、そうしなければ璋夜と一緒にいられない。
 なら自分はそうならなければ。拳を震わせ、綾汰は敦牙に問う。

「・・・・・・僕にもなれ、ますか?かなさんや敦牙さん、みたいに・・・強い意志を、持てますか?」
「もちろん、貴方にその覚悟があるなら」
「自信があり、ません」
「大丈夫ですよ。貴方は璋夜さんが自らでそばに置いた人です。そのことに自信を持ちなさい」

 とんと胸を人差し指の第二関節で優しく突かれて、綾汰は顔を上げる。
 目があった敦牙は優しく微笑んでくれて、綾汰も頬を緩めて頷く。

 なりたいと、思った。こんな強い人に。
 そうすれば、誰に文句を言われても動じたりしない。
 彼女に何を言われてももう、立ち向かっていける。誰にも文句言わせない。

「が、んばります・・・。璋夜さん、のためにも」
「その意気ですよ、リョタくん」

 敦牙が頭を撫でて褒めてくれた。やっぱり優しいお兄ちゃんみたいだなと思いながら黙って受けていると。

 突然横から突き飛ばされた。
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 それから1時間くらい経った頃、怜李が綾汰を迎えに来た。
 綾汰の服は学生服か着流ししか持っていなかった為、燕のパーカーとジーパンを借りている。

 約束通り、璋夜はそのまま部屋に残って玄関まで見送りはしなかった。
 それでも綾汰が触れていた手を名残惜しいが離せたのは、璋夜の所有印が首筋に残っていたから。
 この印があるから、自分は璋夜のものだと認識できる。
 璋夜もその印に満足したのか、微笑を浮かべて送ってくれた。

 玄関に見送りに来てくれたのは優妃だけだった。
 緋呉は紗妃を監視しなければならず、燕と結音も自らで受け入れた罰だったので部屋で我慢しているらしい。

 まともに2人と話せなかったのが残念だが、2人の意思を汲んで言伝だけ頼むことにした。

「あんまり無理しないで。俺のことは心配しなくていいよって伝えといて」
「わかった。なにかあったら私か緋呉に連絡して。私たちなら自由に連絡できるから」
「うん。きぃちゃん、あんまり気に病まないでね」

 綾汰に笑顔でそう言われて優妃は目を見開き、そして嬉しそうに顔を綻ばせて綾汰の手を握った。

「もう大丈夫。昨日、燕とゆいに慰めてもらったからね」
「そっか。よかった」
「リョタ、私も燕たちもリョタが大好きなの。だから、どこにいても私たちが味方だってこと忘れないでね」
「うん♪じゃあ、行ってきます」

 優妃が手を離すと同時に綾汰は踵を返して玄関を出て行った。

 久しぶりの外は、もうすぐ昼になるからか日差しがまぶしい。
 玄関の前には怜李の赤い外車が止まっている。

「挨拶は済んだ?」
「はい。あの、ごめんなさい。送らせてしまって・・・」
「これが俺の仕事だから。荷物運ぶよ」

 嫌な顔一つせずに爽やかに微笑んだ怜李は綾汰が持っていた大きなボストンバッグを取る。

「だ、大丈夫です!持てますよ!?」
「気にしないで。後部座席に置くね」

 綾汰が両手で持っていたものを怜李は軽々と片手で持ち、後部座席のドアを開けて中に入れた。
 それだけじゃなく、次に助手席のドアも開けた。違和感なく手慣れた様に綾汰は苦笑する。

「怜李さんってとてもモテそうですね・・・」
「特別な相手にだけだよ。さあ、乗って」
「あ、ありがとうございます」

 綾汰が慌てて乗り込む。と、それと同時にズボンのポケットに入れていた怜李の携帯電話が震えた。
 確認した怜李はその画面を見てクスッと笑う。

「どうしたんですか?」
「リョタを誘惑するな、このタラシ野郎!・・・て怒られたんだよ」

 そういって怜李が見せた画面。送り主は燕で、文章の終わりには怒った感じの顔文字が入っていた。
 綾汰も思わずクスクス笑った。

「かわいいな、燕」
「そうだね。・・・・・・さて、これはどっちに嫉妬してくれているのかな」
「え?」
「なんでもないよ。さあ、行こうか」

 ぽつりとつぶやかれた言葉が聞き取れずに聞き返す綾汰に怜李は笑顔でそう言うと、助手席のドアを閉め、運転席の方へ回り込んだ。
 運転席に乗ってきた怜李はシートベルトを閉めて告げる。

「あまり気負う必要はないけど、少し気は引き締めてね。鴇棠は・・・生半可な場所じゃないから」
「は、はい」

 怜李の忠告に改めて自分は怖いところに行くのだと気づく。

 あの、人に対して辛辣な璋夜が育ってきた場所。覚悟が必要だと言われるほどのその場所に自分はしばらくお世話になる。
 どれほどの場所なのかはわからない。でも、行かないという選択肢は浮かばなかった。
 これからも璋夜のそばにいるためには、そこにいる父親に逢って認められることが通り道。
 ならば、自分は立ち向かわなければならない。

 失って困るものは、璋夜と紅楼だけ。それ以外に失うものがない綾汰には全く迷いはなかった。


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 母は5歳で亡くなってしまったから、記憶はとても曖昧だけど、唯一鮮明に覚えていることがある。
 それは風邪を引いたとき、夜通し手を握ってくれたこと。
 自分の体が熱かったのでいつもよりひんやりとしていたけれど、その手が心地よかったのを覚えている。

 今手に感じるぬくもりはその時と違って温かくて、けれど握り慣れている手。
 母とは違うこの手に、自分はいつもいろいろなところを撫でられ、少し触れられるだけでも感じてしまうようになった。
 それくらい、触られ慣れた手の温もりが今は自分の左手にのみやんわりと感じられる不思議に目を開ける。

 周りの景色がいつもと違う。どうやら別の部屋らしい。
 そのままぼんやりと手の方を確認すると片方の膝を立て、その膝に寄りかかって目を閉じる璋夜がいた。
 ずっとその体勢だったのだろうか。体が痛くなりそうだ。
 起こさなければと体を起こしかけたが、背中に激痛が走り、小さくうめいて再び倒れる。

 その音で璋夜の目が開き、綾汰を見た。

「起きたか」
「お、はよう・・・ございます・・・。あの・・・」

 起き上がろうと、力を籠めようとしたが、その前に璋夜が頭を押さえてきた。

「いきなり起き上がるな。傷が開くぞ」
「え・・・あ・・・」

 璋夜に言われて思い出す。
 自分が紗妃に切りつけられて傷を負い、それを手当てしてもらったのだと。
 だからうつぶせで眠っていたのか。
 合点がいったその時、璋夜が綾汰の肩に手を置く。

「まず横向きになれ。それからゆっくり起きろ」
「は、はい」

 璋夜に言われるまま、ゆっくりと体を横にしてそこから肘を使ってゆっくり体を起こした。
 傷が痛んだが、さっきほどの痛みはなかったので一人で起きることができた。

 ふぅと息をつき、再び璋夜の方を見ると、璋夜がまっすぐ自分の方を見ていたのでドキッとした。

「璋夜さん・・・?」
「体は大丈夫そうだな」
「あ、はい。あの・・・みんなは・・・?」
「自分の部屋で休んでいる。今日も仕事だからな」
「あ、あの・・・あれからお店って・・・」
「臨時休業した。その分も今日は稼がなきゃいけねぇ」
「ご、ごめんなさい・・・」

 自分が優妃を庇うことに必死で自衛しなかったせいで迷惑をかけてしまったと綾汰は肩を落とした。
 すると、璋夜の手が綾汰の頬に触れる。

「わかってんなら余計なことはするな。お前が誰の所有物か、再度認識しろ」
「は、い・・・。あ、あの・・・でも思わず体が動いてしまって・・・。きぃちゃんは・・・大丈夫なんですか?」
「ああ。今回のことでしがらみから解き放たれたみたいだな」
「しがら、み・・・?」

 目をぱちくりさせる綾汰に璋夜は気にするなと告げ、神妙な面持ちになった。

「今回の件でお前は事態が沈静化するまでの間、俺の実家に行くことになった」
「璋夜さんの実家って・・・かなさんが、いる・・・ところ?」

 この前来た、璋夜の父親の『猫』。とても気さくで優しいお母さんみたいな人だった。
 その人とまた会えるのは嬉しいが、実家へ連れて行かれるということには疑問を感じた。

「でも、俺はまだ璋夜さんのお父さんと会わせられないって言ってたのに・・・」
「不測の事態だからな。親父やかなにも了承はもらってる。もう少ししたら怜李さんが迎えに来るはずだ」
「璋夜さん・・・は?」
「俺はお前が帰ってくるまで接触禁止だ」

 璋夜から告げられた言葉に綾汰は目を見開いて愕然とした。
 接触禁止ということは、しばらく璋夜に会えないということ。
 嫌だと心が叫び、璋夜の服を掴む。

「どうして・・・ですかっ」
「それが俺の罰だ」
「罰・・・?」
「今回、結果的に実家も巻き込んだ形になったからな」
「・・・・・・そんな・・・」

 それは、自分にとっても罰だ。
 起きてすぐにそんなことを知らされて、激しい動揺を隠せず服を掴む手が震える。

 怖い。璋夜がいないことが、見知らぬ場所に独りになることにこんなにも恐怖を感じたのは、初めてだ。
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